展示会のフォローメールとは、展示会で名刺交換した相手に、来場のお礼と話した内容、次の一歩を伝えるメールです。届くのが早いほど、相手はブースでの会話を思い出しやすくなります。

当社(株式会社etika)は、名刺交換の直後にスマホ1台で「Zoho CRMへの登録」「会話の記録」「お礼メールの下書き」までを終える社内アプリを作り、2026年10月から社内でテスト運用を始めました。この記事は、その作り方と、運用してみてつまずいた課題、その直し方をまとめたものです。内容は2026年10月に当社の環境で確かめた結果です。

2022年には、Zoho CRMのワークフローで名刺交換のお礼メールを自動送信する仕組みを作りました(「展示会やイベントでの名刺交換時のお礼メール送信を自動化をZOHO CRMで実装してみた」)。今回は、送信を自動にせず、AIが会話に合わせた下書きを作って人が送る、という別の考え方で作り直しています。

なぜ作ったのか:会期後にまとめて処理すると、フォローが遅れて薄くなる

これまでの当社の展示会フォローは、会期が終わってから次の順で進めていました。

  1. 名刺をスキャンしてCRMに取り込む
  2. 誰が誰と話したかを、録音やメモと突き合わせる
  3. 要約とお礼メールの文案を作り、担当者が直して送る

この流れには、次の3つの問題がありました。

  • 会期が終わるまで何も進まず、お礼メールが届くのが数日後になる
  • 名刺と会話の記録を後から突き合わせるため、対応がずれたり、誰と話したか分からない名刺が残ったりする
  • 時間がたつと話した中身を思い出せず、お礼メールが定型文に近づく

そこで、「名刺交換の直後、相手と別れたその場で、記録と下書きまで終える」ことを目標にしました。

全体の流れ:撮る・話す・確かめる、の3つだけにした

名刺を撮る、声で会話を入れる、AIが読み取りと下書きを作る、CRMに登録する、人が確かめてGmailの下書きから送る、という5段階の流れを左から右に並べた図。

アプリでの操作は、次の流れです。

  1. 名刺を撮る(表、必要なら裏も)
  2. AIが読み取った会社名・氏名・メールなどを確かめる
  3. 話した内容を、スマホのキーボードのマイクで声で入れる
  4. 「CRMに登録してお礼メール文案を作る」を押す
  5. 文案を読み、必要なら直して「Gmailに下書き保存」を押す

4を押すと、裏では次のことが起きます。

  • Zoho CRMに見込み客を作る。担当者はログインしている本人、種別は「イベント」、展示会ごとのタグを付け、名刺の画像を添付する
  • 同じメールアドレスの人がすでにCRMにいれば、新しく作らずにその人のメモに書き足す
  • 会話メモからAIが要約・相手の関心・次の約束・温度感を作り、CRMのメモと詳細情報に書く
  • 同じ会話メモからAIがお礼メールの件名と本文を作る

下書きは担当者本人のGmailに入ります。アプリからは送信しません。

何をAIに任せ、何を人に残したか

作る前に決めた線引きは次のとおりです。

工程 担当 理由
名刺の読み取り AI 項目に分ける作業は速く正確。自信のない項目は印を付けて返させ、人が見比べる
CRMへの登録 プログラム 担当者・種別・タグなど、決まったルールで書くだけなのでAIは使わない
会話の記録 人(音声入力) 何を話したかは本人にしか分からない
要約・お礼メールの下書き AI 会話メモをもとに、会社の文案の決まりに沿って作る
送信 人 会話メモにない約束や、価格・補助金の断定が混ざっていないかを確かめてから送る

お礼メールの文案には、当社の決まりをAIへの指示として渡しています。たとえば「宛名→お礼→伺った話→当日の内容→次の一歩」という構成、温度感が高い相手には打ち合わせの候補日程を書くこと、価格の数字や補助金の可否を断定しないこと、会話メモにないことを書かないこと、です。AIが「送る前に確かめるべき」と判断した点は、画面に一覧で出します。

1日で作るために決めた進め方

要件の整理から、通しテストを通してテスト運用を始めるまでを、1日(2026年10月23日)で進めました。開発はAIコーディングエージェントと一緒に行い、進め方を次のように決めました。

  1. 要件と仕様を先に文書にする。 画面の流れ、CRMのどの項目に何を書くか、ログインの方式を、作る前に1つの文書にまとめた
  2. 迷う点は確認事項ボードに集めて、判断だけを受ける。 「会話の内容をCRMのどこに書くか」「名刺の画像を添付するか」などを選択肢つきで並べ、おすすめと理由を書いて選んでもらった
  3. 本番の環境で通しテストを流してから渡す。 スマホの画面を再現したブラウザで、本番のCRM・Gmail・AIを使って、利用者の場面ごとのシナリオを最初から最後まで自動で確かめた。テスト用のデータは名前で見分けられるようにし、最後に全部消す

通しテストのシナリオは、「初めてログインする」「新しい展示会を登録する」「名刺を撮って登録する」「文面を直して下書きを差し替える」「2回目に会った人を登録する」「電波が弱い」「入力の途中で閉じた」などです。2026年10月23日時点で22項目を自動で確かめています。

仕組みは、Cloudflare Workers(サーバー側の処理)とスマホのホーム画面に追加できるWebアプリ(PWA)で作りました。ログインは担当者ごとにZohoとGoogleで行い、CRMの担当者もGmailの下書き先も、その人のものになります。

つまずいた課題と直し方

ここからは、作っている途中と、実際に使い始めてから起きたことです。

見込み客のタグが上限に達していて、展示会のタグを作れなかった

展示会ごとにタグを付ける設計にしたところ、見込み客のタグがすでに上限の100個に達していて、新しいタグを作れませんでした(上限の数は、当社の環境のタグ作成APIの応答で確かめました)。

使われていないタグを洗い出すと、付いている見込み客が0件のタグが14個ありました。担当者に確認したうえでこの14個を消し、空きを作りました。タグを消しても、見込み客のデータは消えません。アプリでは、新しいタグを作る前に「新しく作られます(残り◯個)」と確認を出し、既存のタグから選ぶことを先に促すようにしました。

タグは作れているのに「失敗」と表示された

タグを作るAPIは成功していたのに、アプリには「タグの作成:失敗」と出ました。原因は応答の形です。見込み客の作成などのAPIは結果を data という名前で返しますが、当社の環境では、タグのAPIは tags という名前で返していました。応答を読む処理を両方に対応させて直しました。

登録した直後は、同じ人を検索で見つけられない

同じメールアドレスの人がCRMにいるかは、Zoho CRMの検索APIで確かめています。ところが当社の環境では、登録してから1〜2分ほどは、その人が検索に出てこないことがありました。

利用者の操作では、同じ人を続けて登録することはまれなので、アプリの案内に「登録してから1〜2分は重複と判定できないことがある」と書いて運用で避けています。通しテストでは、件数の確認に検索APIではなく、CRMのデータを問い合わせ言語で直接数える方法(COQL)を使い、時間差に左右されないようにしました。

iPhoneで「CRMに登録」を押すと Load failed になった

担当者がiPhone(モバイル回線)で試したところ、名刺の読み取りまではできたのに、「CRMに登録」を押すと「Load failed」と出て止まりました。サーバー側の記録を見ると、この送信はサーバーに届いていませんでした。

当時は、登録のときに名刺の写真をもう一度まるごと送っていて、送る量が大きくなっていました。そこで次のように直しました。

  • 登録のときは文字の情報だけを送り、名刺の画像は登録が済んでから1枚ずつ別に送る
  • 送る前に写真を小さくする
  • 通信が切れたら、2回まで自動で送り直す
  • 名刺ごとに画面で番号を振り、同じ番号の登録は1回しか処理しない(送り直しやボタンの2度押しで二重に登録しない)

通しテストには、iPhoneで撮るのと同じ大きさの写真を使うこと、1回目の送信をわざと切ること、同じ名刺を2回送ることを加えました。

スマホの音声入力で、業界の言葉が誤変換される

テスト運用で、スマホ純正の音声入力では「Zoho」が「ゾーホー」に、「kintone」が「キントーン」になるなど、業界の言葉がうまく文字にならないことが分かりました。このままだと、CRMのメモに誤変換が残り、お礼メールでも読み替えに失敗することがあります。

直し方は3つの案を比べました。

案 良い点 弱い点
用語の辞書で機械的に置き換える 確実で速い 辞書にない崩れ方は直らない。本来の意味の言葉まで置き換えてしまう
AIが用語集と文脈を見て直す 文脈で判断できる。今のAIの呼び出しに含められるので、待ち時間も費用もほぼ増えない見込み 直しすぎのおそれがある
アプリで録音し、語彙を指定できる音声認識に渡す 最も正確 キーボードのマイクが使えなくなり、作る手間も費用も大きい

当社は、1つ目と2つ目を組み合わせました。アプリに用語集を持たせ、「ゾーホー→Zoho」のように必ずその言葉になる誤変換は先に置き換えます。そのうえで、AIが用語集と文脈を見て、残りの誤変換だけを直します。言い回しや内容は変えないよう指示し、本来の意味で使われているかもしれない言葉(たとえば「SOHO向けの事務所」のSOHO)は、AIの判断で直さずに、「送る前に確認」に出します。直した言葉は画面に一覧で出し、違っていれば人が直せます。

新しいタグ名でイベントを保存すると、入力が消えた

展示会を登録する画面で、新しいタグ名を入れて保存すると、確認が出ずに入力が消えることがありました。サーバーが返した「新しいタグを作ってよいか確認してほしい」という印が画面に届いておらず、画面がエラーとして全体を描き直していたためです。印を返すように直し、エラーのときも画面を描き直さずに入力を残す形にしました。

作るときに気をつけた点

既存の自動化を動かさない

当社のZoho CRMには、見込み客ができたときに動くワークフローがあります。アプリから見込み客を作るときは、ワークフローを動かさない指定(レコード作成APIの trigger に空の配列を渡す。公式ドキュメントでは、ワークフロー・承認・ブループリントのどれも実行しない指定です)で登録しています。自動のお礼メールなどと二重に動かないようにするためです。

作り直しても、CRMの記録が増えない

会話メモを直して要約と文案を作り直せるようにしました。作り直すたびにメモが増えると、CRMが読みにくくなります。そこで、CRMのメモは同じものを書き換え、詳細情報には名刺ごとの開始と終了の印を付けたブロックを書き、作り直したときはそのブロックだけを差し替えるようにしました。Gmailの下書きも、同じ下書きを書き換えます。

本人のアカウントだけで動かす

ZohoとGoogleには担当者が本人のアカウントでログインします。当社の組織のアカウントで、利用者として登録した人でなければ使えません。また、Gmailの下書きを作るたびに、接続しているGmailがログインしている本人のものかを確かめています。GmailのAPIに求める権限は、下書きの作成(gmail.compose)と、署名を読むための基本設定(gmail.settings.basic)の2つに絞りました。

自社で同じ仕組みを作るときのチェックリスト

  • CRMのどの項目に何を書くか(担当者・種別・タグ・メモ・詳細情報)を、作る前に決めたか
  • 見込み客のタグの空きは足りているか。使われていないタグはないか
  • 既存のワークフローと二重に動かないか
  • AIに任せる範囲を「下書きまで」にし、送る前に確かめる点を画面に出すか
  • 同じ人を2回登録したとき、新しく作らずに追記できるか
  • モバイル回線で送信が切れたとき、二重に登録せずに送り直せるか
  • 音声入力で誤変換されやすい言葉を集めて、用語集として使えるか
  • 本番の環境で、利用者の場面ごとの通しテストを流してから渡すか

Zoho CRMと生成AIを組み合わせた業務の仕組みづくりは、Zoho CRM×AI活用支援でご相談いただけます。名刺管理ツールからCRMへの取り込みの設計は「名刺の名寄せをZoho CRMで自動化する設計」に、メール配信の下書きをAPIで作る方法は「Zoho Campaigns APIで下書きキャンペーンを作る」にまとめています。

よくある質問

展示会のフォローメールは、いつまでに送るのがよいですか?

記憶が新しいうちに届くほど、相手が内容を思い出しやすくなります。当社は会期中のその日のうちに下書きまで作り、内容を確かめてから送る運用にしています。下書きを後回しにすると、会話の中身を思い出せずに定型文になりがちです。

お礼メールの送信まで自動にしないのはなぜですか?

AIの文案には、会話メモにない約束や、価格・補助金の断定が混ざる可能性があるためです。当社は、AIが作るのは下書きまでとし、送る前に確かめる点を画面に一覧で出して、担当者が読んでから送る形にしています。

名刺の読み取りにはどんな仕組みを使っていますか?

撮影した名刺の画像をAI(ClaudeのAPI)に渡し、会社名・氏名・メール・電話などの項目に分けて返させています。読み取りに自信がない項目も一緒に返させ、画面で色を付けて人が名刺と見比べるようにしました。

既存のZoho CRMの自動化(ワークフロー)と二重にメールが飛びませんか?

アプリから見込み客を作るときは、ワークフローを動かさない指定でAPIを呼んでいます。お礼メールはアプリが作るGmailの下書きだけになるので、自動のお礼メールと二重に届くことはありません。

スマホの音声入力で「Zoho」などの言葉が正しく文字になりません。

当社でも「ゾーホー」「キントーン」のように誤変換されました。アプリに用語集を持たせ、決まった誤変換は機械的に置き換え、それ以外はAIが用語集と文脈を見て直す形にしています。直した言葉は画面に出し、違っていれば人が直せます。