2026年6月17日、IT比較・検討セミナーの「マジセミ」様主催で、オンラインセミナー**「チャットで聞けば顧客データが返ってくる世界 〜生成AIと業務システムの現実的な組み合わせ方〜」**が開催され、当社代表の宮村がスピーカーとして登壇いたしました。
キャンセル待ちが出るほど多くのお申し込みをいただき、質疑応答にはZoho Japan様にもご参加いただくなど、生成AIと業務システムの組み合わせへの関心の高さを実感するセミナーとなりました。当日の内容をダイジェストでお伝えします。
参加者アンケートに見る「いま」
講演の冒頭では、参加者の皆様にその場で2つのアンケートにご回答いただきました。
- 業務で使っている生成AIは?(複数選択):最も多かったのはGemini、次いでChatGPT、CopilotとClaudeが同程度。「社内独自・自社構築のAI」という回答も一定数あり、活用が進んでいる様子がうかがえました。
- 顧客管理に使っているシステムは?:Zoho CRMが最多となった一方、Excel・スプレッドシートや独自管理という回答も多く、「データはあるが、引き出しにくい」環境が今も多いことが見えてきました。
なぜ「チャットで聞ける」ことが求められているのか
これまでの業務システムは「人がGUIをクリックして使う」ことが前提でした。ある取引先の状況を把握しようとすると、取引先を見て、過去の商談を見て、活動履歴を見て、販売管理システム側で見積書・請求書も確認して……と、データは揃っているのに「この会社との取引の全体像」がすぐにわからない。これが現場の大きなペインになっています。

講演では、SlackやGoogle Chat、Zoho Cliqといったチャットツールを入り口に、生成AIが業務システム(CRM)のデータを解釈して返してくれる構成が紹介されました。「この商談どうなってる?」「今週フォローすべき商談は?」と自然言語で聞くだけで、過去のやり取りや取引状況がまとめて返ってくる世界です。
背景には、チャットで業務を進める文化の定着と、AIと業務システムをつなぐMCP(Model Context Protocol)のような仕組みの整備があります。Zoho CRMもMCPへの対応を早いスピードで進めており、AIとの接続が以前よりずっと容易になっています。
大事なのは「売上のどこに効くのか」
一方で講演を通して強調されたのは、「このツールを入れたい」「このAIを使いたい」という手段先行ではなく、パイプライン量 × 受注率 × LTV(顧客生涯価値)のどこに効かせるのかを紐付けて設計することでした。過去の取引や履歴をチャットでまとめて引き出せると、次のアクションに必要な情報が早く正確に揃い、受注率の向上やクロスセルによるLTV向上、そして「担当が変わってもきちんと履歴を踏まえて対応してくれる」という顧客満足につながっていきます。
「書けるAI」と「読めるAI」— 分岐点は権限設計
本セミナーのコアテーマが、AIエージェントにデータの編集(書き込み)権限を渡すかどうかという分岐点です。

- 書けるAI(編集権限あり):データの一括編集・レコード作成・見積書作成などができて便利な反面、非常に強い権限。管理者やマネージャーなど限られた人に絞り、「見積書は編集できるが取引先データは参照のみ」のようにモジュール単位で権限を制御する。
- 読めるAI(読み取り専用):データの書き込みができないため安全性が高く、現場の営業・カスタマーサポートに広く展開しやすい。
そのうえでの推奨は明確で、**「まずは読み取り専用のエージェントから始める」**でした。

もうひとつの重要な論点が「そのエージェントを誰が使えるのか」です。チャットのチャンネルに招待された人は誰でもエージェントに指示できてしまうため、本来その情報にアクセスすべきでない人が使える状態にならないよう、AIに渡す権限と、チャット側のメンバー管理をセットでチューニングする必要があります。
デモ:SlackからZoho CRMを操作するAIエージェント「サン君」
講演では、当社が実際に運用しているSlack上のAIエージェント(通称「サン君」)のデモをご覧いただきました。
- Slackでメンションして「新規のリードを登録して」と依頼すると、Zoho CRMに見込み客を登録(重複していれば「すでに登録済みです」と回答)
- 「この案件どうなってる?」と聞くと、CRMのデータを参照して回答
- 「見積書を作成して」と依頼すると、見積書を作成してリンクを返却。帳票の出力も可能
このエージェントには「リード作成」と「見積書作成」の権限だけを渡し、それ以外のデータは参照のみに制限しています。強い権限を渡すときほど、業務に必要な範囲へ絞り込むことがポイントです。
大量データの分析は「データ基盤経由」で
読み取り専用のエージェントには、接続方式が2パターンあることも紹介されました。
- ツール直接接続:「この商談どうなってる?」のように対象データが少ない質問なら、チャット+AI+MCPでCRMへ直接接続するシンプルな構成で十分
- データ基盤経由:「過去1年の受注傾向を分析して」のように数万件規模のデータを扱う場合は、CRMのデータを日次でBigQueryなどのデータ基盤に集約し、AIにはそちらを参照させる

データ基盤経由の構成では回答も速くなり、さらにCRMだけでなくGoogleアナリティクスやSearch Consoleのデータも同じ基盤に集約して、横断的に統合分析させることができます。デモでは、見込み客の獲得状況・Webのパフォーマンス・検索での表示傾向をAIがまとめて分析し、現状分析から次の打ち手までを提示するレポートをご覧いただきました。これまで「CRMのダッシュボードを作って、GAを見て、Search Consoleを見て、うーんと考える」だった作業が、大きく変わりつつあります。
落とし穴:データ整備と権限設計
最後に、取り組む際の落とし穴として次の2点が挙げられました。
- データが整理されていない:販売管理とCRMで顧客の表記がバラバラ、突合するコードがない、そもそもデータが残っていない——AI以前の「そもそも論」でつまずくケース
- 権限設計が曖昧:AIにどこまでの権限を渡すのか、チャットにアクセスできるのは誰なのかが設計されていない
裏を返せば、ここをきちんと設計できれば、業務システムのデータを安全にチャットから呼び出し、複合的な分析までできる環境はビジネス上の大きな武器になります。
質疑応答ハイライト
質疑応答では、Zoho Japan株式会社の海老原様にもご参加いただき、参加者の皆様から実践的なご質問をいただきました。
Q. 顧客情報がAIの学習に使われたり、外部へ漏洩したりするリスクは?
学習をオフにした環境に限定する、ローカルで動くAIモデルに処理させるなど、セキュリティ許容度に応じた設計が可能です。加えて重要なのは、AIに渡す権限の制御と、エージェントを使える人の管理。リスクがゼロになることはない前提で、あらかじめ明らかにして設計することが大事なステップになります。
Q. 最初からやってはいけない失敗例は?
編集・削除・作成は大きな権限です。宮村自身、ローカルで動かしていたAIエージェントが誤ってフォルダを全削除してしまった経験があり、「まずは読み取りから始める」が鉄則とお答えしました。
Q. データが十分整理されていない場合、何から着手すべき?
海老原様からは「テーブル構造の設計とデータ入力の徹底は、AI時代にむしろ一層重要になる」とのコメント。宮村からは、実務での2つの原則として「入力項目は欲張らない(本当に必要な項目に絞る)」「週次で必ずレビューする(入力状況をレポートで見える化し、現場に適度なプレッシャーをかける)」をご紹介しました。
Q. 取り組むとしたらどのくらいの期間で実現できる?
権限設計・対象データ・目標アウトプットを決めるのに1ヶ月程度。環境構築自体は小規模な組織なら1〜2週間、大きな組織では権限の棚卸しも含めてもう1ヶ月程度が目安です。海老原様からは「大企業ほど、AI時代を見据えて権限設定をもう一度洗い直すことが近道になる」との補足もありました。
まとめ
「チャットで聞けば顧客データが返ってくる」環境は、MCPなどの仕組みの整備により、現実的なコストで構築できる段階に入っています。ポイントは次の3つです。
- 読み取り専用のAIエージェントから始める
- AIに渡す権限と、使える人のアクセス管理をセットで設計する
- ツール先行ではなく、パイプライン量×受注率×LTVのどこに効かせるかを紐付ける
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